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誰も知らなかった星氏の真実「星新一 1001話をつくった人」最相葉月 [人生や物事について考えたいときに]


「星新一 1001話をつくった人」最相葉月 新潮社 2007年

実は二度目のトライである。
昨年手にしてみたのだが、あまりの重厚さに一度離れることとなった。

そんな私が再度この作品に挑戦してみたい、と思ったのは
星新一という人物そのものへの興味、としかいいようがない。

私が子どもの頃、お小遣いで買えた文庫は星新一のショート・ショートなど
短い作品であった。当時、200円もしないで買えたと思う。
近くに図書館もなく、家で、その後は通学の友にもなった。

しかし、実は具体的にどんな作品だったのか、ほとんど覚えていないのだ。
トーンは覚えている。
しかし、「あの作品はねえ」と具体的に空手で語れるものがない。

*****

最相氏の研究の成果ともいうべきこの作品は、
「星新一像」を描いた執念の一冊ともいえる。

新一の父、星一は製薬会社をチェーン展開し、一時は大変な実業家であった人。
身近なところでは星薬科大という形でその事業は残されている。

しかし、戦争やその他様々な社会状況、ねたみなどから引き起こる社内外の問題から
するりと逃げるように、新一は全く事業に無関心だった。

それどころか、風変わりな行動、交友を好み、ものを書き始める。

そのくだりでは、日本でのSFの創世期を知ることもできる。
私が昔夢中になって読んだSF・推理作家たちの若き頃が描かれている。
SFという言葉の誕生、早川書房の創世記についてもである。
新一の交友を通して、著名な作家、芸術家たちの名前も続出し、興味深い。

さらに、新一がショート・ショートという形でいくつもの作品を
間断なく多くの雑誌、企業誌、新聞等に書き続ける様が淡々と資料を基に綴られる。

そして、新一の母の死。
父の死が星家の産業の実質的な崩壊の始まりだとすれば、
母の死こそが新一にとっての初めての肉親を失う深い悲しみの時であった。

新一の晩年も描かれる。
淡々と。

そう、「淡々と」という言葉が全編を読んでの新一に対する私の感想である。
しかし、これだけの心身の労苦があの作品の背景にあったとは、
このレポートと出会わなければ知ることはなかったろう。

*****

著者、最相氏が5年をかけた取材により本作を完成させたあとがきで、
「子どものころにあれほど引き込まれた作家のことを自分は何も知らない。
引き込まれたのに、物語の内容はまったく忘れている」

と書いている。
同じだ、と思いびっくりした。

そこにこそ、最相氏が長年労苦をかけてこのレポートをまとめあげた鍵がある。
「それでも、心に落ちている小さなかけらがある。
そのかけらの正体を見極めてみたかった。」

まことに見事な研究成果である。
そして、これは星新一という人間、そして星氏の作品を今後手にするにあたり、
大きな変化を与えてくれる裏づけとなるであろう。

新一氏本人はあの世で飄々と「ふーん」なんて聞き流したふりを
しそうではあるが。

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※読みたいけれど図書館で借りたり本屋で探す時間の無い方はご利用ください。

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人

  • 作者: 最相 葉月
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 単行本


nice!(1)  コメント(1) 
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コメント 1

ニライカナイ店主

はっこうさんへ>
ナイス&ご来店いつもありがとうございます。
この作品はさすが最相さん、と思わず唸ったほど
丁寧な取材の集大成でした。読み解くのに時間もかかりますが、
一人の人生をここまでまとめあげた作品は読後の満足感も
充実したものでした。
by ニライカナイ店主 (2008-03-17 09:33) 

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